カスタマー向けの会話ボットを構築し、運用を開始する準備が整ったら、ボットの効果を引き上げるためにいくつかのベストプラクティスを検討するとよいでしょう。
この記事では、次のトピックについて説明します。
準備作業
会話ボットの構築を始める前に、ヘルプセンターのコンテンツを準備し、回答を計画するためのベストプラクティスをいくつか紹介します。
ヘルプセンターのコンテンツを準備する
- ヘルプセンターで、よくある問題を見つけてコンテンツ化する。ヘルプセンターの記事のトピックを見つけるために、チケットやマクロなどのリソースを確認します。
- AIに見つけやすくするため、コンテンツを最適化する。会話ボットはヘルプセンターのコンテンツから情報を引き出すので、適切に記述され書式設定された記事はボットのパフォーマンス向上につながります。
回答を計画する
- ユーザーからよく尋ねられる質問を特定する。チケットの上位の問題を調べ、ヘルプセンターでよく使われる検索用語を確認し、エージェントと相談して、ボット用に回答を準備するための計画を立てます。
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まずエンドユーザーが自力で解決できる回答を作成する。これにより、エージェントが対応しなくても済みます。よくある、簡単に答えられる質問の例として、次のようなものが挙げられます。
- 営業時間
- パスワードのリセット
- 店舗の所在地
- まず、最も一般的な質問に答えることから始める。よくある質問のうち20問程度に対する回答を用意しておき、時間をかけてカバー範囲を広げていくとよいでしょう。すぐにすべての問題に対処しようとしないでください。
ボットの標準応答を作成する
ボットの標準応答を定義する際には、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
- 質問は短く、要点を絞ってもらうよう、ユーザーに促す。
- 質問を一度に1つずつするよう、ユーザーに促す。たとえば、「キャンセルしたいのですが、ログインできません」ではなく、質問を2つに分ける必要があります。
- 会話の相手がボットであることを明確に示す。相手が人間だと思われると、メッセージや会話が長くなる傾向があります。その結果、ボットは適切に理解できなくなり、ユーザーは誤解されたと感じるかもしれません。
- ユーザーに背景情報を説明しながら自由に質問してもらうようにする(ボットが返答生成、推奨記事の提示、または複数の回答で構成されている場合)。ユーザーは1つのキーワードを使用するのではなく、自由に質問をする必要があります。たとえば、「返金」のような一言だけだと、「返金リクエスト」に興味があるのか、「返金ポリシー」に興味があるのかが明確でないため、ユーザーの目的が誤って解釈される可能性があります。
- よく使われる回答をピン留めし、エージェントと話すオプションがあるかどうかを明確にする(あいさつ、説明、またはフォールバック応答などの場合に)。これにより、カスタマーのフラストレーションを軽減し、会話のループを防ぐことができます。
- エージェントと話すオプションを提供する。人間の担当者に引き継げない場合は、あらかじめその旨を伝え、ユーザーにフラストレーションを感じさせないようにしましょう。
多言語ボットを設定する
エージェントがサービスを提供しているカスタマーベースで複数の言語が使用されている場合、自動翻訳を有効にすることでカスタマーとのコミュニケーションを円滑できます。自動翻訳を使用する場合、以下の点を考慮してください。
- 翻訳品質を最適化するために、1つの言語でボットを構築する。
- 選択したボットメッセージを手動で翻訳するために、カスタム翻訳を使用する。
回答を作成する
会話ボット用の回答を作成する際には、ボットのパフォーマンスを向上させる回答を構成する方法について、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
ユーザーを参加させる
ユーザーの関心を引くような回答の導入を考えるときは、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
- 各回答は、エンドユーザーの問題を復唱することから始める。これにより、ボットが誤った回答にマッチさせた場合に、混乱のリスクを減少させます。たとえば、ユーザーが「アカウントをキャンセルしたい」と入力した場合、ボットは「アカウントをキャンセルされたいとのこと、残念です」と返します。
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ボットをどのようにナビゲートすべきかをエンドユーザーが理解できるようにする。ボットの設計方法によっては、エンドユーザーのさまざまなインタラクションスタイルがボットのパフォーマンスに影響を与える可能性があります。回答を見つけるためにユーザーがボットをナビゲートする方法を明確にします。
- 回答の途中で提供されたオプションから選んでもらうようユーザーに求める(ナビゲーションエクスペリエンス(1つの大きな回答フロー)を提供するようにボットを設計している場合)。
- ユーザーがサポートに連絡できるように、別のエージェントへ転送するための回答を作成する。提示されたオプションがユーザーのニーズに合わない場合は、代替オプションとしてエージェントへの転送を行う回答をメインナビゲーションエクスペリエンス全体にリンクします。
- 雑談の処理には、別の回答を作成する。たとえば、会話を終える際に「ありがとうございました、またご利用ください」といった返答を作成します。
解決策を見つける
ユーザーを解決策に導くための回答を作成する際には、以下の一般的なベストプラクティスを参考にしてください。
- 特定の記事への複雑すぎるフローを構築するのヲ避ける。代わりに、自動的に返答を返す返答生成機能を活用します。これにより、回答のメンテナンスを最小限に抑えることができます。
- カスタマーエクスペリエンスをパーソナライズする。認証を要求したり、条件付きシナリオを含めたり、目的を使用したりすることで、パーソナライズされたエクスペリエンスを作成します。
- 他のシステムにAPIコールを行うことで、ユーザーの自律的なアクションを作成する。これにより、カスタマーからの返品などのサポートリクエストの大半をエンドツーエンドで自動化できます。
- 各回答が質問に対応するように解決策を提供する。たとえば、質問に対する回答をボットメッセージで伝えたり、ヘルプ記事へのリンクを提供したり、APIコールでタスクを実行したりします。
会話を終了する
回答の終わり方とどうまとめるかを考える際は、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
- ユーザーの問題が解決されたことを確認するために、フィードバックを求める。質問が解決されたかどうかを尋ね、ユーザーの問題が解決されたことを確かめます。このフィードバックは、後でボットの有効性を分析するために使用することもできます。
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行き止まりをなくすために代替オプションを提供する。
- APIコールに失敗した場合、エージェントに転送するか、関連する回答にリンクするオプションを提供します。たとえば、注文ステータスの取得に失敗した場合、ユーザーが注文ステータスを手動で確認する方法についての記事へのリンクを提供します。
- ユーザーが問題が解決していないことをフィードバックで示した場合に、代わりのオプションを提供する。エージェントに転送するオプションを追加したり、役に立ちそうな関連する回答へのリンクを追加する方法があります。
- 営業時間外にユーザーから問い合わせがあった場合、エージェントに転送するエスカレーションオプションを提供し、ユーザーがチケットを作成し、エージェントが後で非同期で対応できるようにします。
ボットの質問と回答のマッチングを改善する
手動でトレーニング用の表現を追加したり、回答に目的を割り当てることで、ボットがユーザーに正しい回答や記事を提案する可能性を高めることができます。目的を使用するには、目的モデルが割り当てられている必要があります。
トレーニング用の表現を使用する
回答にトレーニング用の表現を使用することで、ボット回答のマッチ率の精度を向上させることができます。目的モデルがある場合は、トレーニング用の表現ではなく目的を使用します。
トレーニング用の表現を使用する場合は、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
- よくある質問をユーザーがどのように表現しているかを記録する。回答をトレーニングする際に似たような言葉を使用します。
- 共通のトピックを1つの回答にまとめる。たとえば、海外配送と国内配送を1つの回答に含めます。
- 似たような、あるいは関連した意味の表現を使う。Zendesk AIは、質問の全体の意味や文脈を理解しようとするセマンティックマッチングを採用したモデルを利用しています。たとえば、「太陽光発電」と「再生可能エネルギー」は意味的に関連しており、セマンティックマッチングモデルはこの関連性を認識することができます。このモデルは、「クレジットカード」と「銀行口座」のように、共に使用される可能性が高い言葉の組み合わせを、一致すると判断することがあります。
- マッチ率を上げるためにさまざまな表現を追加する。ただし、質問のバリエーションをすべて追加する必要はありません。たとえば、ユーザーがスペルミスをしていたり、言い回しが少し違っていてもマッチングされます。
- トレーニング用の表現は、各質問に対し最低でも3~5個用意することを目指す。
- 個々の単語を登録するのは避ける。ボットトレーニングには、文脈を理解するのに十分な詳細を提供するいくつかの短い単語から成る表現が最も効果的です。たとえば、「返金」の代わりに「注文を返金」を使ったり、「更新」の代わりに「メンバーシップの更新」を使ったりします。
- 不必要な言葉や、「こんにちは」や「~したいです」、「どのようにすればよいでしょうか」といった一般的な表現の使用は避ける。これらの表現があると、質問の本質的な意味がわかりにくくなる可能性があります。たとえば、「こんにちは、返金を受けたいのですが」ではなく、「返金を受けたい」と表現してください。
- トレーニング用の表現を複数の言語で登録しない。トレーニング用の表現は自動翻訳されます(有効になっている場合)。
トレーニング済みの目的を使用する
目的モデルがある場合は、トレーニング用の表現を手動で追加する代わりに、トレーニング済みの目的を回答に割り当てることができます。目的を使用する場合は、以下のベストプラクティスを参考にしてください。
- トレーニング済みの目的を回答に割り当てることで、質問と回答の一致率のパフォーマンスを大幅に向上させます。
- よくある質問の目的に対して、返答生成を使用する。これらの一般的な質問は、通常、ヘルプセンターの記事の情報を使用してボットで解決できます。
会話ボットの運用を開始したら
ボットを立ち上げてから48時間後には、アクティビティの監視を開始し、パフォーマンスを改善するためのアップデートを行うことができます。それには、次のベストプラクティスを参考にしてください。
- ボットのパフォーマンスを監視し、改善する。既定のExploreレポーティングダッシュボードでは、ボットからメッセージを受信したユーザーの数、ボットとアクティブにやりとりしたユーザーの数、エージェントに転送されたボットの会話の数を確認できます。
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ボットのアクティビティを確認し、情報の不足に対処する。インサイトダッシュボードを使用して、主要なボットメトリック、特に「回答できない」比率を把握します。この比率が下がるように、次のベストプラクティスを使用してボットのコンテンツの網羅率を改善します。
- 未解決のボット会話ログを確認して、ボットによって対処されていない問題を特定します。これらのトピックをカバーするヘルプセンターの記事を作成します。
- 目的モデルが割り当てられている場合は、回答に割り当てられていない主要な目的を確認します。これらの目的を関連するボットの回答に割り当てて、ボットがフォールバック応答(「すみません、よくわかりません」)を返す可能性を最小限にします。