サービスレベルアグリーメント(SLA)は、サポートチームがカスタマーに応答および解決策を提供するまでの時間を明確に定義し、測定するポリシーです。品質、可用性、適時性など、SLAポリシーで定義できるサービス品質の基準は数多くあります。これらのSLAメトリックのうち、初回返信時間は、カスタマーテクスぺリエンス全体にとって非常に重要であり、オムニチャネルルーティングによって最も影響を受ける可能性のあるメトリックです。
Exploreのレポーティング機能を使って現状のメトリックを把握し、初回返信時間のSLA目標を特定し、オムニチャネルルーティング機能を組み合わせてその目標を達成することができます。
初回返信時間データの収集とモニタリングを行なう
オムニチャネルルーティングまたは返信時間のSLAを実装する前に、各チャネルのサービスレベルを把握することが重要です。このデータは、オムニチャネルルーティングの適切な設定とSLAポリシーの達成を測定するためのベンチマークとなります。
Exploreでは、メールおよびメッセージングのチケットの返信時間データに関するレポートを生成できます。レポートを定義する際に、時間の単位(秒、分、または時間)を指定し、メトリックの計算を営業時間に限定するか(Supportまたはメッセージングで設定されている場合)、代わりにカレンダー時間を使用するかを指定できます。さらに、初回返信時間の平均値と中央値のどちらをレポートするかを決定することができます。また、時間フィルターを適用して過去のデータを振り返ることもできます。詳細については、Supportおよびメッセージングのチケットの初回返信時間のレポーティングに関する記事を参照してください。
コールの返信時間を測定するには、コール待機時間メトリックを使用するとよいでしょう。このメトリックはメールおよびメッセージングのチケットに使用される初回返信時間メトリックに最も近いメトリックです。なぜならコールが受信され、最初にルーティングされてから、カスタマーが初めてエージェントにつながるまでの経過時間を測定するからです。詳細については、「待機時間別着信コール」を参照してください。
初回返信時間のSLAメトリックについて
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キュー時間チケットがエージェントに割り当てられるか打診される前にキューで待機する時間は、次の3つの要因と直接関係しています。
- エージェントの空き状況。これは、キューがルーティングするエージェントのグループと、そのグループ内のエージェントのステータス、キャパシティ、スキルによって決まります。オムニチャネルルーティングでカスタムキューを使用する場合、エージェントのメイングループが最初に考慮され、セカンダリグループは必要な場合にのみ考慮されます。キューから仕事を受け取る資格のあるエージェントが多ければ多いほど、チケットはすばやくキューを離れ、エージェントに割り当てられるか打診されます。予想されるチケットの量を処理するために、キューのグループに適切な数のエージェントを揃えられるよう人員調整とスケジューリングを検討し、必要なサービスレベルを維持するために、人員不足の状況に迅速に対処します。
- キュー内のチケットの順位。キューの先頭にあるチケットが最初に割り当てられます。キュー内の順位は、まずチケットの優先度によって決められ、次にタイムスタンプによって決定されます。
- キューの優先度。エージェントが複数のキューから仕事を受け取る場合、優先度の最も高いキューからのチケットが最初にエージェントに割り当てられます。競合を最小限に抑えるため、各キューに設定するメイングループとセカンダリグループに重複があるか、どのように重複する可能性があるかに注意してください。
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受付時間
標準のオムニチャネルルーティングの設定では、メールのチケットは自動的にエージェントに割り当てられるため、受付時間という概念はありません。ただし、メッセージングのチケットは、直接割り当てられるのではなく、まずエージェントに打診が行なわれます。最初に打診されたエージェントがチケットを受け付けなかった場合、オムニチャネルルーティングは、チケットが受け付けられるまで応対可能なエージェントに打診し続けます。
メッセージングの会話の受け入れに時間がかかることが気になる場合は、オムニチャネルルーティングの設定でメッセージングの自動受付を有効にすることができます。これを有効にすると、受付時間がなくなります。
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応答時間
チケットが割り当てられた、または受け付けられた後、エージェントはエンドユーザーのニーズを読み取り、理解する必要があります。そして適切な回答を作成しなければなりません。「高度なAI」アドオンを使用してリクエストの内容を要約し、さらにチケットに応答することで、応答時間を最小限に抑えることができます。
オムニチャネルルーティングの設定が初回返信時間のメトリックに与える影響については、「SLAポリシーに合わせてオムニチャネルのルーティング設定を最適化する」を参照してください。
初回返信時間のSLAポリシーを作成する
- 既存のサービスレベル+X%:このモデルでは、既存のサービスレベルを何%向上させるかを決定します。既存のサービスレベルにカスタマーも満足している場合は、この方法を使用して基準を段階的に向上させていくことができます。
- 業界基準のサービスレベル:場合によっては、達成したいサービスレベルの基準が明確にされていることがあります。よくある例としては、8割のメッセージが20秒以内に返信されるという業界基準があります。
- 多様なサービスレベル:このモデルは、エンドユーザーのタイプによってサービスレベルを変える場合に最適です。たとえば、料金を支払ったユーザーにプレミアムサービスレベルを提供したり、重要な顧客層の優先度とサービスレベルを高めることなどができます。
ほとんどの場合、カスタマーが問い合わせに使用するチャネルごとに初回返信時間のポリシー定義を変えるのが望ましいでしょう。通常、メールチケットの初回返信時間は分単位または時間単位でカウントしますが、オンラインチャネルの初回返信時間は秒単位または分単位でカウントします。チャネルベースのサービスレベルだけでなく、テーマ、個々のエンドユーザーまたは組織、あるいは顧客のセンチメント(「高度なAI」アドオンを使用している場合)に基づいてサービスレベルを区別することもできます。デリケートなトピック、価値の高い顧客、取引関係が解消されるリスクのある顧客、怒っている顧客などには、より高いサービスレベルを保証することが求められることがあります。
たとえば、チケットを受け取ったチャネルとVIP顧客からのチケットかどうかの2つの条件によって定義される4つのSLAポリシーを定義することができます。この場合、SLAのリストは、返信時間の早い順にVIPメッセージ、非VIPメッセージ、VIP Webフォーム、非VIP Webフォームとなります。
SLAポリシーを作成するには、「SLAポリシーの定義」を参照してください。
SLAポリシーに沿ったオムニチャネルルーティングキューを定義する
SLAの達成に向けてオムニチャネルルーティングを使用するメリットを最大化させるには、ルーティングのキューをSLAポリシーに合わせることが重要です。オムニチャネルルーティングは本来、キュー内で優先度とチケット作成のタイムスタンプによってチケットを順序付けます。つまり、通常、次回の返信時間のSLAに最も近いチケットがキューの先頭に置かれており、したがって最初に割り当てられます。標準のキューの順序付け動作が、キューの優先度およびSLAポリシーに一致する順序付けと組み合わされるとき、最短の応答時間を必要とする最も重要なチケットを含むキューが、キューレベルとキュー自体の両方で優先されます。
- SLAポリシーと同じ条件であること
- SLAポリシーと同じ順序であること
- 各SLAポリシーの緊急性に一致する適切な優先度を持つこと
先ほどのSLAの例に引き続き、同じ名前と条件でオムニチャネルルーティングの4つのカスタムキューを作成し、同じ順序で並べることができます。このシナリオでは、VIPメッセージングのSLAが最も短い返信時間を必要とするため、VIPメッセージングキューに最も高い優先度が与えられ、リストの一番上に置かれます。
これらのキューでは、チケットが割り当てられるグループを構成するために、さまざまな方法を選択することができます。ただし、この例では、4つのキューすべてがTier 1のメイングループにルーティングされ、必要に応じてTier 2のセカンダリグループにルーティングされるとします。また、VIPメッセージとVIP Webフォームの2つのキューにのみ、セカンダリグループを指定することもできます。
SLAポリシーに合わせてオムニチャネルルーティングの設定を最適化する
SLAポリシーに合わせてオムニチャネルルーティングの設定を最適化する場合、キュー以外にも、エージェントのキャパシティと使用する個々のルーティング設定という2つの主要な考慮事項があります。
エージェントのキャパシティをSLAに整合させる
オムニチャネルルーティングを使用する場合、エージェントに設定されたキャパシティルールは、エージェントのチケットの受信および返信の可用性に直接影響します。最大キャパシティは、チャネルごとにエージェントに同時に割り当てられるチケットの数を決定します。エージェントにキャパシティルールがある場合、オムニチャネルルーティングは、各エージェントに割り当てられているすべてのオープンでアクティブなチケットを追跡し、適格なステータスを持ち、かつチャネルの最大キャパシティを下回っている場合にのみ、エージェントにチケット処理の仕事をルーティングします。
コールのキャパシティルールは、0(エージェントがコールを全く受け付けない)か1かの2つのオプションしかないので簡単です。メールやメッセージングチャネルのキャパシティルールを適切に設定することが難しい場合があります。キャパシティの最大値を低く設定しすぎると、エージェントが返信する前にチケットがキューで長く待たされるため、サービスレベルに悪影響を及ぼすことがあります。逆に、キャパシティを高く設定しすぎると、エージェントが割り当てられた業務に圧倒されてしまい、すべてのチケットにタイムリーに対応できなくなることがあります。
とりあえず、直感で最大キャパシティを設定します。ただし、キャパシティルールを決定する最善の方法は、Exploreレポートを活用し、データに基づくアプローチをとることです。キャパシティルールを決めるためにExploreを使用する場合は、数日または数週間の間に作成されたチケットの量と、同じ期間にエージェント個人またはグループによって解決されたチケットの数を調べます。必要であれば、より詳細に、時間単位で作成および解決されたチケットを調べることもできます。定義したメッセージングのキャパシティが、状況によってはオンラインチャットにも別途適用されることに留意してください。
オムニチャネルルーティングの設定をSLAに合わせる
スキル
ルーティングソリューションにスキルを組み込むことで、適切なエージェントがチケットに対応できるようになります。チケットの解決に必要なスキルと知識を持つエージェントに対応させることで、サービス品質を向上させることができます(CSATと平均処理時間で測定)。チケットに多くのスキルを要求しすぎると、限られた人数のエージェントが対応できるようになるまでキューにチケットが滞留してしまう可能性があるため、スキルの使用についてはバランスをとることに注意することが重要です。オムニチャネルルーティングのカスタムキューとスキルを組み合わせる場合、チケットの処理に必要なスキルを持つ十分な数のエージェントを、仕事を受けるキューに割り当てることが重要です。
スキルを使用する価値と、エージェントに割り当てられるまでチケットが長く滞留するリスクのバランスをとるために、スキルのタイムアウトと優先度を使用することをお勧めします。スキルのタイムアウト設定をオンにすると、オムニチャネルルーティングは、チケットがキューの先頭に所定の時間置かれた後、ルーティング条件からオプションのスキルを削除します。考慮からスキル要件が除外されるごとに、チケットを受け取る資格のあるエージェントの数が増え、ひいてはチケットが割り当てられる可能性が高まります。スキルの使用を選択し、スキルのタイムアウトを設定しない場合、チケットは、要件に合うすべてのスキル(必須およびオプション)を持つエージェントがチケットを受け付けることができるようになるまで、キューの先頭に無期限に残り続けます。
スキルのあるグループとスキルのないグループに割り当てられたチケットの数が不明な場合は、ExploreのSupportデータセットを使用して、指定された期間にわたってこの情報を特定するレポートを作成することができます。
詳細については、「スキルを使用してチケットをルーティングする方法」を参照してください。
メッセージングの自動受付
メッセージングの場合、基本動作として、会話を自動的に割り当てるのではなく、エージェントにまずチケット処理の打診が行なわれます。このため、エンドユーザーに最初の応答が返される(初回返信時間)までに時間がかかることがあります。このような懸念を解消するため、オムニチャネルルーティングには、メールのチケットを扱うのと同じように、メッセージングの会話を自動的にエージェントに割り当てるオプションが用意されています。初回返信時間のメトリックを向上させるために、この機能を使用することをお勧めします。
ただし、自動受付の設定はメッセージングの再割り当てタイミングとは併用できませんので、ご注意ください。どちらかのオプションを選択する必要があります。
メッセージングの再割り当てタイミング
メッセージングの再割り当てタイミングは、メッセージング会話の初回返信時間を改善できるもう1つのオプションです。メッセージングチケットを自動的に割り当てるのではなく、エージェントに打診するようにオムニチャネルルーティングが設定されている場合、このオプションを設定することで、エージェントのチケットの受付に時間がかかりすぎたときに、ルーティングエンジンが次に対応可能なエージェントにチケットを回すことが可能になります。メッセージングの再割り当てタイミングはデフォルトで30秒になっていますが、Enterpriseプランではこの設定を変更することができます。メッセージの返信時間SLAの設定が特に短い場合は、メッセージの再割り当てタイミングの設定を短くするとよいでしょう。
エージェントの統合ステータスにアイドルタイムアウトを設定することで、エージェントへの打診メッセージの送信時間を短縮することができます。なぜなら、非アクティブなエージェントは、メッセージングなどのリアルタイムチャネルから仕事を受け取る資格がないステータスに自動的に設定されるからです。
メッセージングアクティビティルーティング
メッセージングアクティビティルーティングの設定は、エンドユーザーからの応答がないまま10分経過すると、会話を自動的に非アクティブにします。これにより、エージェントのキャパシティを自動的に解放し、メッセージングの会話(およびオンラインチャット)にエージェントを対応させることができます。
キュー内で非アクティブになったチケットは、打診されず、エージェントに直接割り当てられます。これにより、チケットを積極的にやりとりしているエンドユーザーがまだオンラインでつながっていて、エージェントからの応答を待っている間に、そのチケットがキューの先頭に置かれる可能性が高まります。同様に、エージェントに割り当てられたメッセージング会話への返信をエンドユーザーが止めた場合、オムニチャネルルーティングは自動的にその会話を非アクティブとしてマークし、アクティブなメッセージングチケットを多く割り当てるためにそのエージェントのキャパシティを解放します。
オムニチャネルルーティングのこの基本動作は、最新のメッセージで初回返信時間SLAを達成するのに役立ちますが、組織やワークフローによっては問題になることもあります。たとえば、どのエージェントも対応できない営業時間外に多数のメッセージが受信された場合、メッセージング会話は非アクティブになり、翌朝、最初にサインオンしたエージェントにすべてのメッセージが割り当てられる可能性があります。
メッセージングアクティビティルーティングをオンにすると、オムニチャネルルーティングは、メッセージの作成時期に関係なく、すべてのメッセージ(アクティブと非アクティブ)を平等に扱います。これにより、カスタマーからのメッセージは、最近のアクティビティに関係なく、受信した順に処理されます。これは、エージェントが非アクティブなチケットに振り回されたり、アクティブな会話に集中しているエージェントに非アクティブなチケットが未解決のまま滞留するという問題を解決しますが、エージェントが、エンドユーザーからの応答ないメッセージングチケットのステータスを手動で「保留中」または「解決済み」に変更するなど、メッセージングのキャパシティを自身で管理しなければならないことにもなります。
フォーカスモード
フォーカスモードをオンにすると、オムニチャネルルーティングは、エージェントに一度に1つのリアルタイムチャネル(コール、メッセージング、またはオンラインチャット)の作業のみを割り当てます。場合によっては、エージェントが一度に1つのインタラクションに完全に集中できるようにすることで、インタラクションの質を向上させ、解決を早めることができます。しかし、コールや会話が他の方法よりも長くキューに残ることがあるため、初回返信時間が全体的に長くなる可能性があります。
SLAポリシーをサポートするためのその他の最適化
オムニチャネルルーティングは、目標のサービスレベルを達成するための強力なツールです。ただし、実際のサービスレベルと目標のサービスレベルとの差があまりにも大きくなり、人員調整がさらに必要になる場合があります。以上のベストプラクティスをすべて実施したにもかかわらず、目標のサービスレベルに達しない場合は、人員調整とスケジューリングを見直す必要があります。